『海峡点描』

“海の上を走っていたレール”のお話です(ヤフブロより引っ越し作業中💦)

カテゴリ: 連絡船資料(文庫・単行本)

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戦記モノの本を多数出版している「光人社」。
中でもNF(ノンフィクション)文庫と呼ばれるシリーズは、読んだ事がある方も多いのではないでしょうか。
一兵士の立場で書かれた体験記から、戦争全体を客観的に解説した本まで。
そのジャンルは多岐に渡ります。
特に海戦を主題にした本は根強い人気があり、様々な戦場で闘った色々な艦船が取り上げられては今も発刊され続けています。

船の戦いと言うと戦艦「大和」などの戦闘艦を思い浮かべる人がほとんどだと思いますが、戦争経済を支えた‘商船’にスポットをあてた本というのは、なかなか世にでませんでした。
この『戦時標準船入門』を執筆した大内建二さんは、NF文庫の中でも異色の存在。
今まで知られることのなかった商船や機帆船、漁船を徴用した特設艦船などの闘いをメインに書き続けています。

日本の戦時標準船は第一次と第二次の二つに分類(少数ながら三次・四次も存在)され、青函連絡船の戦時標準船は第二次。
「青函丸W型」・・・・正確に言えば第五~第十二青函丸と、「博釜丸H型」の石狩丸が第二次戦時標準船(戦標船)にあたります。
本書は日本/アメリカ/イギリスで建造された戦時標準船全般の動向を綴っており、W型/H型についての記述は図を含めて僅か6P。
ですが添付のW型「第五青函丸」配置図(画像4・5枚目)は、戦時下の鉄道連絡船がどのような形だったかを知る手がかりになるかと思います。
ただ残念なのは、記述や図面に正確さを欠いていること。
第五青函丸の船内線路数(記載は3線/正しくは4線)や、W型(「第十青函丸は昭和20年3月に海難で沈没」は第九青函丸《昭和20年2月27日海難沈没》の事)およびH型に関する内容(「計画のみで詳細は不明」/実際は石狩丸《第一博釜丸》の建造に着手)には、ちょっと疑問を投げ掛けたくなります。

しかし、戦時標準船をここまで掘り下げた本も他にありません。
書店で見かけた際は手にとってみてはいかがでしょうか?


【今回ご紹介した本】
『戦時標準船入門』―戦争中に急造された勝利のための量産船―
大内 建二 著/光人社 2010.07.23発行 298+6P

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鉄道連絡船というと青函や宇高など「鉄道車両を航送する船」を頭に思い浮かべますが、この本の題材となっている『興安丸』は、鉄道省の国際連絡航路だった関釜連絡船の一隻。
大平洋を渡ったオーシャンライナーのような風貌を持つ、美しくスタイルの純‘貨客船’です。
総トン数8000tにも満たない船体ながら、姉妹船「金剛丸」や改良型「天山丸」「崑崙(こんろん)丸」と共に、戦前の日本商船最速を誇っていました。
この本は、関釜連絡船の盛衰と共に翻弄された『興安丸』の物語。
昭和12年の華々しい誕生から戦時下の危険な航海、僚船の撃沈や座礁、戦後の引揚げ船時代、東洋郵船への売却、高度経済成長時の遊覧船/インドネシア巡礼航海、そして昭和45年の廃船まで・・・・。
33年にわたる船歴を、設計者や乗組員のエピソードを交えながら綴っています。
また付録として『興安丸』船室配置図もあり、乗組員たちが語る船内の様子を図面で追うこともできます。

添付画像5枚目の‘興安丸就航記念’優待割引券は、東洋郵船発行のチケット。
東京湾遊覧船としてスタートを切った昭和33年4月発行の券です。
ネットオークションで出品していたものですが、本で興安丸の船歴を知っていただけに見て絶句! 即落札!!
価格は例によってワンコイン。
券については改めて紹介しますが、遊覧船‘興安丸’時代の貴重な‘栞’として本に挟んで保管しています。

船の物語本では「氷川丸物語」が有名ですが、波瀾万丈な一生の末ひっそりと姿を消した『興安丸』の足跡も連絡船ファンや商船ファンには興味深いところです。


【今回ご紹介した本】
『興安丸』―33年の航跡―
森下 研 著/新潮社 1987.03.15発行 269P+図面1枚

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青函連絡船廃止26年後の2014年2月に発売された、連絡船関係本としては新しい本です。
著者は大神 隆さん。
‘船の科学館’に羊蹄丸が展示されていた時は、ボランティアガイドも務めていたとか。
元・連絡船乗組員の皆さんが結成した『青函連絡船史料研究会』会員として、現在でも精力的に活動している方です。

新書版サイズの大きさながら、資料価値の高い図表や写真を豊富に掲載(画像2、3枚目)。
内容は「第一章:青函連絡船とは」「第二章:青函連絡船こぼれ話」「第三章:青函連絡船の運航」「第四章:その後の羊蹄丸」の四章に分けて執筆しており、航路史をまとめた第一章より、実際に起こったエピソード(第二章)や運航中の船内を乗組員の視点で記述(第三章)したところにページを割いている点が、今まで出版されていた連絡船本とは違っています。
連絡船各船に取り付けられたCAS(レーダー情報装置)の専門家として、乗組員と共に津軽丸(2代)型のブリッジに立った大神さん作成の津軽海峡潮流データ表(画像4枚目)なども、他の本には無い貴重な資料です。

鉄道関係の書籍を扱っている大手書店なら入手できる一冊。
学生さんでも懐が痛まない価格なので、若い方にも読んで欲しいですね。

【今回ご紹介した本】
『青函連絡船物語 -風雪を越えて津軽海峡をつないだ61マイルの物語-』
大神 隆著/交通新聞社 2014.02.15発行 283P

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